大判例

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大阪高等裁判所 昭和40年(う)1685号 判決

本店所在地

大阪市南区宗右衛門町二〇番地

富士観光株式会社

右代表者代表取締役

韓祿春

本籍

朝鮮江原道高城郡高城面

住居

西宮市塩瀬町生瀬一、一一九番地

会社役員

韓祿春

大正一一年四月二三日生

本籍

大阪市住吉区粉浜東之町四丁目一一九番地

住居

同市同区粉浜本町二丁目一七番地

会社役員

清嶋稔

大正一三年六月一日生

本籍

滋賀県浅井郡湖北町字山本三、四五〇番地

住居

八尾市堤町三丁目一三番の一

会社役員

柴原龍夫

昭和八年一一月一三日生

右富士観光株式会社、韓祿春、清嶋稔に対する法人税法違反、柴原龍夫に対する封印破棄各被告事件について、昭和四〇年六月二八日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人らから各控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 碩巖 出席

主文

原判決を破棄する。

被告人富士観光株式会社を判示第一の一の事実につき罰金四〇万円に、判示第一の二の事実につき罰金四〇〇万円に処する。

被告人韓祿春を判示第一の一の事実につき罰金四〇万円に、判示第一の二の事実につき罰金四〇〇万円に処する。

被告人清嶋稔を判示第一の一の事実につき罰金一〇万円に、判示第一の二の事実につき罰金一〇〇万円に処する。

被告人柴原龍夫を懲役二月に処する。

被告人柴原龍夫に対しこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

被告人韓禄春、同清嶋稔について右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用はこれを二分し、その一を被告人韓禄春の負担とし、その余を被告人清嶋稔の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人尾上実夫作成の控訴趣意書、控訴趣意補充書、第二控訴趣意補充書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一点、事実誤認の主張について

論旨は、要するに、被告人富士観光株式会社(以下被告会社という)、同韓禄春、同清嶋稔の各法人税法違反の事実に関し、(一)昭和三三年度の大新商店からの簿外仕入ビールの売上は、押収にかかる八枚のメモ(当庁昭和四〇年(押)第五九八号中の証三号の一部)に記載された売上と重複するもので、これを別個の売上と認定したのは誤りである。(二)昭和三四年度の簿外ビール一本当りの売上単価は、二二六円と算定すべきであるのに、三八二円としたのは誤りである。(三)昭和三三、三四年度の秘匿所得は、すべて被告会社の借入金の利息支払にあてたもので、右借入金が被告人韓個人の借入金であつて被告会社がその利息を負担すべきものではないと認定したのは誤りである。というのであるが、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案するに、

(一)の点につき、原判決は、被告会社が大新商店から昭和三三年七月三〇日以降同年八月二五日までの間六回にビール七、六八〇本を公表帳簿外で仕入れたのち、同年八月頃からビールの仕入や受払が時折途切れていること、被告会社は毎日営業し一日の使用量は一、〇〇〇本位であることから、右簿外仕入分がその頃営業に使用され、同時に売上除外されたと推定し、売上に関するメモの発見されている同年一一月三〇日から同年一二月二三日までの期間にはじめて売上除外されたとは考えられないとしてるのであるが、一般に簿外仕入により簿外売上を推定する場合には、同年度内に他の簿外売上が発見されると、これと推定売上が重複しているかどうかが一応問題となる。しかし、原判示のとおり被告人韓、同清嶋は、被告会社設立の昭和三三年五月から営業年度末の同三四年二月末までに五〇〇万円を下らない売上除外をしたことを自認しており、前示七、六八〇本のビールの分として推定した売上除外額二、四一九、二〇〇円と、メモにあらわれた売上除外額三、四〇二 一二〇円の合計五、八二一、三二〇円がこれと大むね合致するところからすると、原判決のこの点の結論が証拠上不合理であるとはいえず、被告会社のいわゆる裏帳簿類が存しない本件の場合には、所論を検討しても原判決の算定に重複があるとの合理的な疑を抱かせるには致らない。

(二)の点につき、原判決は、A券、B券、追加券等による単価の異なる各種のビールの売上除外割合につき、昭和三六年から同三八年にかけての追加ビールの本数とA券、B券によるビール合計本数との比率の平均が四二一二八九対四五九、〇〇九であることから、昭和三四年度のA券、B券によるビールの公表売上本数にこの比率を乗じて得た一六五、四四九本が同年度の実際の追加ビール売上総本数であると推定し、これから公表追加ビール本数九四、五八六本を除いた約七〇、八〇〇本(月平均約五、九〇〇本)が優先的に売上除外された追加ビールであるとし、これに追加ビールの売上単価二三〇円を乗じて(イ)売上一六、二八四、〇〇〇円を算出し、同年度簿外売上一四一 〇六七本中右七〇、八〇〇本を除いた残り七〇、二六七本は追加ビールとA券、B券その他の公表売上本数の比率で売られたと見て、このうち同三四年三月から同年八月までの売上分二七、九六〇本に同期間の公表平均売上単価(A券、B券、追加券等の公表売上高合計を公表ビール使用本数で除した金額)五二二円を乗じて(ロ)売上一四、五九五、一二〇円を算出し、同三四年九月から同三五年二月までの売上分四二、三〇七本に同期間の公表平均売上単価五四六円を乗じて(ハ)売上二三、〇九九、六二二円を算出し、(イ)(ロ)(ハ)の合計五三、九七八、七四二円(簿外売上ビール一本当り単価三八二円)を同年度の簿代売上と認定したものであるが、所論のうち、

原判示の売上単価によれば入場人員多数を秘匿せねばならず、右は常時府税事務所の入場人員調査を受けている被告会社としては不可能であり、また一人当り消費量が過少となつて実情に合わないという点について、原判決挙示の「当社帳簿による入場人員と南府税事務所調査による人員に関する比較表」によると、府税事務所の行う月三回程度の調査日を除き帳簿上の入場人員自体正確であるとは認め難い一方、本件のように推定にる売上認定を伴う場合には、売上の全部を把握できず、認定されない売上が残る場合があると見るのが経験則に合すると考えられるから、これらの数額をもとにして一人当りの消費金額や入場者の計上除外数を正しく推定することはできないというほかはなく、一人当りのビール消費量についても同様の理由で正確な数値が得られるとは考え難いから、右算定の結果は原判示の売上の算定が不合理であるという根拠とはならない。

昭和三四年度には簿外のダンスホール売りビールとして三九、〇〇〇本を使用したという点について、原判示によると同年度には結局約一七、八〇〇本(原判示の方法により優先的売上除外の追加ビールを除く七万本余に、同年度公表ビール総売上本数に対する公表ダンスホール売りビールの比率を乗じたもの)の簿外ダンスホール売りビールがあつたこととなるが、これ以上の簿外ダンスホール売りビールの存在は、これを認めるべき証拠がなく、仮りに右一七、八〇〇本と公表にかかる一九、三二二本の合計約三七、〇〇〇本を、昭和三五年度公表の三五、五二一本(原審弁護人はこれにつき二種の表を提出しており(記録一四六六丁と一八三九丁)、原判決は原審第三三回公判調書中被告人清嶋の供述記載により作成経過の明らかな前者を採用しているが、後者によれば四六、二二一本)、同三六年度公表五九、〇〇〇本余、同三七年度公表五一、〇〇〇本余と対比して見ると、昭和三四年度のダンスホール売りビールが比較的少ないこととなるが、それのみでは、原判示売上本数が誤りであるとは断定できず、この点につき当審における被告会社店舗改装の時期等に関する事実取調の結果を参酌して見ても、右と同様である。

昭和三四年度は、営業方針の差異により催物一日当り同三五年度とは比較にならない多数の無償ビールを使用したという点については、これを認めるに足る証拠がない。また、ビール受払簿の各月残高上それだけの現品がないことになるため、多数の無償ビールを使用してもそれが公表できなかつたという点は、そうであれば簿外仕入の一部を公表してでも同数の無償ビールを記帳した方が、仕入勘定のみ増え、帳簿上の所得が減少して有利であるのに、それをしなかつたことになり、直ちに首肯し難い。

原判決は各種ビール売上の公表平均売上単価を昭和三三年度五二二円、同三四年度五四六円としているが、右算定に際し売上日計表、月計表中原価売りをしたものを考慮していないという点について、右原価売りは所得を生じない行為であるから、所得算定について平均単価を求めるに当りこれを除外したのは相当である。

(三)の点につき、原判決は、借入金の存在と利息支払の事実は一応認められるとしても、右はキヤバレー「キング」の土地建物の実際上の所有者である被告人韓がその建設費用として個人で借受けたもので被告会社の借入金ではなく、従つて利息は被告会社が負担すべきではないこと、土地建物貸借の保証金は、被告会社が別の借入金や増資の方法で調達したことを認定し、支払利息は会社の経費とならないとしているのであるが、原判決がその説示する理由により右のように認定したのは相当であり、その判断に不合理な点はない。

以上のとおり、原判決に事実誤認のあることを主張する論旨は、理由がない。

控訴趣意第二点、量刑不当の主張について。

所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案するに、被告人韓、同清嶋の法人税法違反の所為は、二年度にわたり継続して公表経理からその経営するキヤバレー、ダンスホールの売上の一部を除外し伝票等の証憑書類を破棄したほかビールの仕入を一部記帳せず、いわゆる裏帳簿をも保有しないなどの悪質計画的な方法で決算を粉飾し、所得の約六五%あるいは約八五%を秘匿して法人税合計一三、五三四、〇五〇円を逋脱したものであり、被告人柴原の封印破棄の所為は、結局金庫等を開く特別の必要もないのに敢行したもので、右被告人らおよび被告会社の刑事責任は軽微ではないけれども、法人税法違反については、被告会社の経理が本件摘発後は一応適正化に向つたものと考えられることや、逋脱額自体の規模、あるいは本件逋脱に関して被告会社は前記逋脱額はもとよりこれに副う加算税約六七〇万円をも完納していることがうかがわれること、被告人韓はその後韓国最高の国民勲章である無窮花章を授与され、社会事業にも意を尽していること、なお被告人清嶋は被告会社の監査役経理部長であるが、代表取締役である被告人韓の指図により本件犯行に至つたこと、などを考慮し、被告人柴原の封印破棄については、実際には伝票用紙若干を取出したにとどまることなどを考慮すると、被告会社を罰金合計一、一〇〇万円、被告人韓を懲役一年および罰金合計六〇〇万円、懲役刑につき三年間執行猶予、被告人清嶋を懲役八月三年間執行猶予、被告人柴原を懲役六月三年間執行猶予に処した原判決の刑は、いずれも重過ぎると考えられる。論旨は、理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書によりさらに判決する。

原判示事実につき、被告人韓、同清嶋の判示第一の一、二の各所為は、法人税法(ただし、昭和四〇年法律第三四号附則一九条、同三七年法律第四五号附則一一項により、同二九年法律第三八号による改正後の同二二年法律第二八号法人税法を指す。以下同じ)四八条一項、刑法六〇条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、以上は右各被告人につき刑法四五条前段の併合罪であるから、法人税法五二条により各別に罰金を科することとし、所定罰金額の範囲内で被告人韓を判示第一の一の事実につき罰金四〇万円に、第一の二の事実につき罰金四〇〇万円に処し、同清嶋を判示第一の一の事実につき罰金一〇万円に、第一の二の事実につき罰金一〇〇万円に処し、被告会社につき前同法条のほか法人税法五一条により判示第一の一の事実につき罰金四〇万円に、第一の二の事実につき罰金四〇〇万円に処し、被告人柴原の判示第二の所為は刑法九六条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期の範囲内で同被告人を懲役二月に処し、同被告人に対する刑の執行猶予につき同法二五条一項一号、被告人韓、同清嶋に対する罰金の換刑処分につき同法一八条、原審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 児島武雄 裁判官 加藤光康)

右は謄本である。

昭和四八年一〇月一日

大阪高等裁判所第一刑事部

裁判所書記官 浜田隆輝

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